街と音楽とファッションの切っても切れない関係性

2022.07.29

宮崎市の街中にある四季通り。道路にはレンガが敷き詰められ、車一台分の幅しかないこの通りには魅力的なお店が立ち並んでいます。

そのなかの一つに古着屋「Taffee」があります。

ヨーロッパものの古着を中心に、バンドTシャツやレコードなど音楽を感じさせるアイテムで店内が埋め尽くされています。

それもそのはず。オーナーの久米孝之さんはバンドマンで、根っからの音楽好き。

古着屋を営みつつ、ミクスチャーバンド「PSYKICK POLIGON CHOP」のボーカルとして年に数回のステージを踏み、音楽イベントのブッキングなども務めています。

高校生のころから親しんでいるこの街中。それからもう20年以上の時間が経過しました。

街を行き来する若い人たちやバンドマンの兄貴的存在。

久米さんが10代・20代を過ごした90年代の街中のカルチャーシーンはとても熱かったようです。

「僕らの若いときってまだインターネットも発達していないし、当然SNSだってない。だから音楽にしても洋服にしても、いろんなお店を掘っていかないと気に入ったものに出会えない時代だった。街にも古着屋さんがいっぱいあってね。お正月の初商いなんて凄まじいものだったよ」

そんな環境下で音楽シーンが熱くないわけがない。

久米さんも高校時代からバンド活動を行い、ライブにもたくさん出るようになります。先のお話にもあるように、当時はコミュニティといえばほとんどリアルなものしかない。宮崎市内の各スタジオ、各ライブハウスごとに生息するバンドも異なり、それらのバンドたちと知り合っていく過程も楽しいものだったといいます。

「地区ごとにほんとに色が違うんだよ。まるでローカルなところに視点を当てた漫画みたいな毎日。そんな物語が繰り広げられていてリアルだったね」

ライブハウスのブッキングマネージャーを務めていたころには、県外からやってくるバンドたちに強く影響されたこともあり、自身のバンドを率い、ハイエースで全国を回るツアーを行なったりと精力的な活動をしていました。

そのバンドの活動休止にともなって、以前からやってみたかった古着屋の準備を開始。リサイクルショップで数年修行をしたあと街中に「Taffee」をオープンしました。

久米さん自身、高校生のときに自分でDIYしたお店をやりたいという思いがあり、ライブハウス時代にも人と喋るなかで何かを教わることが楽しく、「街のお店の人」は向いていると感じていたそう。とくに音楽とも結びつきの深い洋服に関わるお店ならなおさら。

「音楽でファッションは重要な部分だよね。好きなミュージシャンの写真を見て、この髪型が!この服装がしたい!って影響されもするし、グランジやブリットポップ風な格好をすることで、そういうジャンルが好きなんだって主張することもできる。それに古着の好きなところはストーリーがあるところ。映画も好きなんだけど、服ってシーンによってキーポイントになるよね。『レオン』のマチルダが着ているMA1、『ドライヴ』のドライバーが着ているスカジャンとかさ。古着はあるシーンのキャラクターに『なった気』にさせてくれる。それって楽しいよね」

Taffeeは今年で8年目。古着好きな若い人たちが音楽や映画に関連したアイテムを、それとは知らずに自分の感性で買っていくたびに、カルチャーの入口をつくったようで嬉しいといいます。

一時は店舗の撤退が相次いだ街中ですが、ここ数年はユニークなお店を出す人々が増えたことで、新たなカルチャーシーンが生まれています。その一人でもあり、長年街に親しんだ身として久米さんも街をおもしろい場所にしていきたいと語ります。

「街が今以上におもしろかった時代を知っているから『宮崎の街には何もない』っていうネガティブな言い方が好きじゃないんだ。何もないならつくればいいし、街の人たちはみんなそうやってきたから。だから街中って言葉を楽しいイメージにしたいんだよね。個性的で、洗練されてもいて、でもどこか泥臭さもあって。それが街中であり『宮崎っぽくね?』になればいいかなって。何もないから街中に行こうって思える場所になれば成功かな」